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東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)50号 判決 1970年6月23日

原告

キャボット・コーポレーション

(ボストン市)

代理人弁護士

ローラント・ゾンデルホフ

復代理人弁護士

牧野良三

弁理士

田代久平

田代烝治

補助参加人

東海電極製造株式会社

代理人弁理士

人谷清

被告

特許庁長官

荒玉義人

指定代理人

小松秀岳

外二名

補助参加人

三菱化成株式会社

補助参加

コロンビアン・カーボン・カンパニー(ニューヨーク)

右両名訴訟代理人弁理士

斎藤二郎

主文

原告の請求は、棄却する。

訴訟費用中、補助参加人東海電極株式会社の参加によつて生じた分については同補助参加人の、その余の分(補助参加人三菱化成株式会社および同コロンビアン・カーボン・カンパニーの参加によつて生じた分も含む)は、原告の各負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を三か月とする。

事実<省略>

理由

一  (争いのない事実)<略>

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二  原告らが本件審決を取り消すべき違法事由として主張するところは、訂正書(案)が採用された場合における本願発明は引用例と相違し、引用例から容易に推考しうる程度のものでないことを前提とするものであることは、本件における当事者双方の主張、とくに原告らの主張に照らし明らかであるところ、原告らの本訴における主張は、右前提とするところにおいて、すでに失当たるを免かれない。すなわち、いずれも当事者間に争いのない本願発明の当初の要旨と訂正書(案)に示された要旨とを比較すると、後者においては、アルカリ金属の供給量の下限を数値的に限定し、供給方法を連続的とした点において前者と相違するのみであり、右相違点にも、後に判示するところから明らかなように、格別の技術的意味はなく、結局両者は、その表現の差異にかかわらず、ファーネス法を基調とするカーボンブラックの製法として、実質的に相違するところがないものと認められる(もつとも、両者が技術的思想において実質的に相違するとすれば、発明の要旨の変更の問題を生ずべく、訂正が発明の要旨の変更にわたるものについては訂正命令を発すべきでないことはいうをまたないところである)。しかして、訂正書(案)以前の本願発明の要旨を前提とする限り、これと引用例記載の方法との比較に関する本件審決の認定が正当であることについては原告らの認めて争わないところであり、この事実に徴すれば、これと実質的に差異のない訂正書(案)が採用された場合の本願発明の要旨についてもまた、引用例との比較において、当初の本願発明の場合と同様、その構成及び作用効果において、格別異なつた技術的意義が存しないものといわざるをえない。したがつて、本願発明は、その要旨が原告ら主張のとおり訂正された場合においても、なお引用例から容易に推考しうる範囲を出ないものというべきである。

原告は、この点に関し、引用例には、訂正書(案)が採用された場合の本願発明における「その製造工程においてカーボンブラックの品質の偏倚に応じてアルカリ金属の供給量を調節する」という技術思想を欠くことを強調……するが、同所に引用された明細書の各記載から前記のような引用例にない技術思想の存在を確認することはできない。けだし、引用例中に、本願方法の場合と同じくファーネス法によつてカーボンブラックを製造する場合に原料炭化水素を水エマルジョンとして反応炉に供給する方法なる技術思想が記載されていること及び通常エマルジョン化に使用される水は工業用水でその中にアルカリ金属が含有されていることは原告の認めて争わないところであるから、このアルカリ金属が引用例の実施面において当然エマルジョン中に混入してカーボンブラックの形成反応帯域中に導入されるものと認められ、かつ、引用例がこのように水を加える目的の一つは製品カーボンブラックの性質の改善にあることを認定し得べく、他方、原告の引用する本願明細書の叙上記載からは、カーボンブラックの品質を検査し、希望のとおりとなつていない場合には、それ以後の製造に当たり、添加すべきアルカリ金属の量を適宜変更して供給し、これを繰り返すことによりカーボンブラックの性質に即応する調節を行なうものであることは認めうるが、さらに進んで、そのそれぞれの製造の過程においてアルカリ金属の供給量を随時変更することにより得られるカーボンブラックの所期の性質を確保しうるという技術的思想は到底見出しえないからである。しかも、他にこれを確認するに足る証拠はないから、原告らの右主張は、これを採用することはできない。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、訂正書(案)が採用された場合の本願発明が引用例から容易に推考しうる程度のものとはいえないことを前提とする原告らの本訴請求は、進んで爾余の点について判断するまでもなく、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する……。(服部高顕 三宅正雄 奈良次郎)

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